5 お遍路さんになって出発 10/22 小雨のち晴れ  歩いた距離:17.2キロ

なんとも照れ臭い。

白衣を着、輪袈裟と納め札入れを首にかけて鏡の前に立ってみたのだが、

きまりが悪くて24年間見てきた顔がまともに見られない。

 

傘もかぶって住職さんに見てもらう。

「こんなものでしょうか」

「おやおやかわいいお遍路さんができたなぁ」

・・・・・・・・・・穴があったら入りたい。

 

ゆうべは興奮して、ほとんど眠れなかった。

まんじりともせずというのは、ああいうことか。初めてだった。

 

おまけに、7~8センチはあろうと思われる蜘蛛が出たりするものだからなおいけない。

 

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朝ご飯を済ませてから ご住職と一緒に本堂へ行く。

先にちょっとのぞいた時、4人のお遍路さんが大きな声でお経を上げ、

「南無大師遍照金剛」と何度も唱えていた。

 

住職は、教本の般若心経を私のために一通りゆっくりと読んでくださった。

仮名がふってあって私にも読めるのだが、声はいっこうに口の外へ出ない。

唇だけがパクパクといった按配。

十番ぐらいまで行ったら覚えられるという。

 

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八時半に霊山寺を出発した時は、小雨まじりの物凄い風で、

知らない間に台風が来たかしらんと思われた。

ビニールの雨合羽が風に翻って木枯らし紋次郎だ。

 

途中の郵便局で、要らなくなった本とパンフレットを家に送る。

後で気がついたら、今日は日曜日。日曜日なのにやっていたの?不思議。

 

雨は直に上がった。

 

10番までの撫養街道沿いの神社はどこも祭礼でのぼりが立ち並び、

小さな女の子達が振袖ではしゃいでいた。

田んぼはようやく稲刈りが始まったところで、

ところどころに「指さした手」や「へんろ道」と刻んだ石がたっている。

 

----------------- 2番 極楽寺へはあっけなく着いた。

5番から4番へ、逆打ちと書いてあったが、順番どおり回る。

3番から4番までの道のりはかなり長く、山道にかかってから少しきつかった。

杖はそれまで突くこともなく持っていて邪魔なくらいだったのに、途端に突き出して たよりにするからおかしい。

 

5番地蔵寺の羅漢堂が面白かった。

薄暗い回廊にさまざまな表情の羅漢さんがひしめいている。

中に自分の腹を両手で開いて見せているのがあった。

ほこりの積もった肋骨の中に、真っ赤な宝珠をのせていた。

 

 

----------------- 3時半、6番 安楽寺に着く。

少し早いと思ったが、宿を頼んでみる。

ところが住職がいなくてわからないし、まだ早いから先へ行けと中にいたおばさんに言われる。

 

 

安楽寺はユースになっているからと安心していたら、とんでもないことに。

心細くてお参りどころではない。

 

 

 

----------------- とにかく 7番 十楽寺まで行く。

7番へ着き納経所で聞いたら、今日は北陸の団体でいっぱいとの事。

8番ならいいかもしれないという。

 

ちょうどそこへ、家族連れが車で来あわせ、おじさんは

「お接待してもらいなさい」と、親切にもその人達に乗せて行ってくれるよう頼んでくれた。

丸亀の人達で、休日ごとに札所を廻っているのだという。行けるところまで行って帰るのだそうだ。

 

色々話しかけてくれるが、頭の中は今晩の泊まりのことしかない。

 

 

 

----------------- 8番 熊谷寺に着いた。

本堂と大師堂でそそくさと手を合わせ、納経所へ行く。

奥さんらしい人が書いてくれる。

無愛想で、怖そうと思ったが、勇気を奮って宿を頼んでみる。

ごにょごにょと返事があったが、聞き取れない。

 

黙って立っていたら、 食事は出来ないが泊まるだけなら、という。

 

 

とたんに、胸がすうっとした。

奥さんは、やさしい人だった。

 

近所にお好み焼きやがあるから、そこで食事をするといいと言う。

 

お寺に上がって、遍路の衣装を脱ぎすて ホッとした。

ネッカチーフを首に巻いて、変身! ご飯を食べに出る。

 

 

 

山門を抜けて田んぼ道に出ると、私は大きな円の中に立っていた。

円周上には低い山々が連なっている。

 

日が山に落ちてすぐ、雲がまだそのほてりを残しているのに東から月が昇ってきた。

「菜の花や月は東に日は西に」 

目の前に広がるのは稲穂だが、まさしく蕪村の句の世界。

暮れなずむ景色にみとれていた。空気が澄んでいる。

 

 

 

お好み焼きやで 肉焼きそばを食べる。120円。

味噌汁60円。

焼きそばは こんな値段でやっていけるのかしらと思うくらい 肉がどっさりだし、

みそ汁は玉子が一つ丸ごとと 油揚げ、豆腐が入っている。味はさほどでもないが、

これで栄養はとれる。

 

食堂を出ると、すっかり暗くなっていた。

山門の真ん中にぽつんと電気が灯り、かえって門が黒々と見える。

冴え冴えとした満月が、歩くにつれて山の上の松を移り、池にも姿を映す。

こんな風に月を見るのは久しぶりだ。

 

さすがくたびれた。早寝しよう。

 

朝食はしてくれるとのことだが、パンを買ってきたから、それを食べよう。

遍路姿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遍路石↓

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逆打ち

順番どおりに回るのが「順打ち」 逆に回るのが「逆打ち」

道順の都合で、時々逆打ちになる所がある。

 

88番から回り始める、全くの逆打ちもある。こうすると、途中で、まわっている弘法大師に会えるとか・・・

 

 

 

納経所と納経帖

 

(クリックで拡大)↓

 

心配の種!

 

何が心配って・・・!今夜の泊まる宿が決まらないくらい心細いものはない。

 

四国を廻っている間中、宿と、お昼ご飯をどこで食べるかばかり考えていた。

 

 

心に悩みを持った人が、四国遍路で救われるというのは、その日一日を無事 生き延びるという目先のことことに必死で、

複雑な悩み事なんかに気を回す余裕がなくなるからだと思う。

 

加えて、歩くことで体も健康になっていけば、心もいい方向に向くというものだ。

 

 

 

 

 

 

 

熊谷寺山門

 

なんともいい感じのお寺だった。山門をくぐると右手が桜、左手が青いもみじ。池があり、壊れかかったお堂がある。本堂まで少し道のりがあった。

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